香山リカ 北原みのり『フェミニストとオタクはなぜ相性が悪いのか』読書メモ

サブカル・オタクを自認する香山リカ氏とフェミニストである北原みのり氏による対談本。

ワインスタインへの告発によって#metooムーブメントが盛りあがり始めた直後の2017年11月発行。トランプが大統領になった年でもある。

約5年前の本だけど、ネット上のフェミニズムに対する反応はまったく変わらず同じところをぐるぐる回っているんだな。たとえば、

香山 今のネトウヨみたいな人たちの議論と似ているのかもしれませんが、あまり言いすぎると「誇りを持って働いているのに否定するのか」「彼女たちの仕事を奪うのか」とか、議論がそっちにいってしまいかねない。
北原 全くその通りですよね。「性売買は良くない」と言うと、「規制することが危険に晒しているんだ」「スティグマを深めているんだ」とかテンプレートの切り返しの言葉があるから。
香山 「そうすると地下に潜るだけだ」「危険が増す」とかね。

p.57

こういうテンプレートの切り返しはいまだによく見かける。

北原 リベラルだから、意味のない応援の旗を振らないでいい。そこはもう覚悟決めたほうがいいんじゃないのかなと思ったんです。戦略を考えて生きて行くと、言葉がどんどん不自由になるから。
香山 そうですね。私もヘイトスピーチへのカウンターの人たちに関わっていてわかったのですが、彼らの周辺には虎視眈々と分裂とか足の引っ張り合いを狙っている人たちがいる(笑)。ネットの世界でちょっとでも「あのカウンターの彼、怖いよね~」なんて言うと、「香山さん、応援してますよ!」なんて言って寝返りそうな人たちを探している人たちがやってくる。何人も暗黒面に堕ちて、あっち側に連れて行かれました。

p.61

人権を否定するレイシストやミソジニスト、歴史修正主義者、現状でいえばロシアの侵略を肯定するような人たちがいるのがダークサイドで、それに反対するリベラル陣営は左から右まで含まれている。自由民主党は英語で「リベラル・デモクラティック・パーティ」なのだ。保守派であっても人権や男女平等は否定しない。リベラル陣営の中でも個人主義を重視しすぎてネオリベみたいになったり、フェミニズムに反発してダークサイドに堕ちたり。リベラル陣営の中の反目と闇に引きこもうとするダークサイド側という三つ巴みたいな闘いがネット上でずっと続いている。

同じ女性であっても年代や境遇で性についての肌感覚、キャリアについての考え方などがまったく違ってくる。そこに現在のフェミニズムの難しさがある。

漫画や芸術に対する表現規制の点では両氏の意見は合わないけど、AV女優や風俗嬢などの「セックスワーカー」や援交ついての議論では、2人とも当事者からの体験談に触れていて、「性の自己決定」とか「表現の自由」が手放しで認められないという点では、お互いを補完しあっている。

差別をなくすということは、社会の構造や人々ひとりひとりの心を変えなければいけないということで、一朝一夕に変えられるものではない。何年たっても何も変わらないのかと落胆しそうになるけど、蝉の声が岩に浸みこむように、フェミニズムの様々な概念が社会に浸透してきてるんじゃないかという気もする。ダークサイドにいるやつらには未来はない。闇の中で永遠に足踏みしているがいい。反差別の側には未来と永遠の時間がある。

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