変わったのはアリエルの見た目だけじゃない。王子のキャラクターを掘り下げて現代的にアップデート/『リトル・マーメイド』感想・考察

映画

1989年公開の同名アニメの実写リメイク。アニメ版とストーリーの大筋は変わらないけど、ところどころ現代的にアップデートされている。魔女アースラと直接対決するのはアニメ版ではエリック王子だが、本作ではアリエルになっていたり。

“Part of Your World”や”Under the Sea”、”Kiss the Girl”など有名な楽曲はそのままだけど、歌詞の一部をリン・マニュエル・ミランダがアレンジし、やはり現代的にアップデートしている。たとえば”Kiss the Girl”では、アニメ版では

There is one way to ask her
It don’t take a word
Not a single word

となっているところが、

Use your words, boy, and ask her
If the time is right
and the time is tonight

と、変更になっているのはわずかな部分だけど、「確認は必要ない、言葉はいらない」から「言葉を使って、彼女に確かめて」と意味は反対になっている。

また、アースラがアリエルに人間になる薬を作るシーンで、「男はおしゃべりな女が嫌い、口をきかない女のほうが魅力的」と言うかわりに、「海の世界に行くか、それとも一生父親に囚われているか」と説得するセリフが変更されている。こちらのほうがストーリーの流れ、テーマにも合ったものになっている。

ストーリー上アニメ版との最も大きな違いは、エリック王子の描かれ方だろう。アニメ版ではエリックは結婚相手を探しているハンサムな王子でしかない。今回のリメイクでは、王子の母親である女王が登場し、自由と未知の世界を求めるエリックを束縛して航海を禁止する。また、父王は外側の世界を怖れるあまり城に閉じこもったまま死んでしまったことが語られる。エリックが歌う”Wild Uncharted Seas”という曲が追加され、”地図にない海”とアリエルへの思いが重ねられている。

アリエルが初めてエリックを目にする場面、エリックは未知の世界と文化への憧れを語っていて、アリエルはたんに王子がハンサムだから恋に落ちるのではなく、自分と共通点があることが好感を抱くきっかけになっている。

アリエルが魔女と契約しエリックと再会した後も、アリエルはエリックとの共通点についてより深く知ることになる。アニメ版とは違って「3日目の日没までにキスをしなければならない」という魔女との契約は魔女の計略によって忘れてしまっているのでキスが予定調和な目標になることなく、お互いの気持ちが深まっていくのがじっくり描かれる。

エリックの母である女王は、未知の世界、海が陸地を取り返しに来ると怖れ、アリエルの父であるトリトンは、妻を人間に殺されたことで人間を憎みアリエルを海の上の世界と人間から遠ざけようとする。不幸な過去と偏見、恐怖が海と陸2つの世界を分断している。

映画の冒頭から鏡や鏡像が何回か出てきて、海と陸、アリエルとエリックが鏡像関係にあることを予告している。2人とも未知の世界と自由を求めていて、アリエルにとってはエリックが、エリックにとってはアリエルがその象徴になっている。物語が大団円を迎え、結ばれた2人はたんなるハネムーンではなく地図にない未知の世界へ向かって旅立っていく。海と陸、分断されていた世界の融和の象徴として。

30年以上の時を経て、分断が深まるばかりのいまこの世界にふさわしくリメイクされた作品だ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました