『ミッション・インポッシブル』シリーズの最新作、これまでのシリーズ作品のなかでいちばん好きかもしれない。過去作との違いはどこにあるんだろうか。
主人公のイーサン・ハントたちが世界を救うためにマクガフィンを追いかけるというのは同じだけど、今回の作品にはSF的、宗教的、哲学的要素が散りばめられている。
今回の敵は、ネットの海に存在しているエンティティ(実体)と呼ばれる人工知能で、あらゆるデジタルデータを操作し、アメリカやイギリスの諜報機関にも入り込んで情報を改ざんしてしまう。このエンティティをコントロールして兵器化できれば、世界を支配できる力を手に入れることになる。
エンティティを解析し対抗するためのキーになるのが文字通りの鍵、十字架型の鍵だ。
エンティティの手足となっている男の名前はガブリエルで、天使ガブリエルは受胎告知に現れたり最後の審判の時にラッパを吹き鳴らし死者を蘇らせる神のメッセンジャーである。
エンティティは強大な計算能力で未来を予測することができる、人工の神のような存在だ。ハントたちの行動もすべてエンティティの計算のうちで常に先回りされてしまう。あらゆる行動が予測可能ということは自由意志が存在しないということだ。決定論的世界のなかで、どうやってエンティティに打ち勝つか、というのが今回のインポッシブルなミッションになる。
世界征服をもくろむ悪者から核ミサイルの発射ボタンを取り戻すというような、何度も繰り返されてきたマクガフィンよりも、幻想的だったり思弁的、哲学的な深みがあるもののほうが深みがある――というだけでなく、単純に、敵の正体や目的が謎めいているほうが最後まで興味を持続させてくれるんじゃないだろうか。
『ミッション・インポッシブル』シリーズといえば、主演のトム・クルーズがスタントを使わずに体を張る危険なアクションが売りになっている。本作では危険なだけでなくコミカルでナンセンスなシーンもあって(劇場ではけっこう笑いが起きていた)、それもこれまでのシリーズとの違いになっている。
たとえばローマでのカーチェイスシーン、ハントがグレース(ヘイリー・アトウェル)と手錠でつながれたまま運転する車が階段を転がり落ちると、助手席に座っていたグレースがいつのまにか運転席のハントと入れ替わっている。蒸気機関車を橋から落とすというシーンと同様、バスター・キートンやジャン=ポール・ベルモンドへのオマージュを強く感じた。
哲学的モチーフ、謎めいた敵、ナンセンスでコミカルなアクション、魅力的な敵キャラクター:ホワイト・ウィドウ(ヴァネッサ・カービー)、ガブリエル(イーサイ・モラレス)、パリス(『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のマンティスを演じていたポム・クレメンティエフ)。これらの違いが本作を過去作よりも楽しめるものにしている。
タイトルに『PART ONE』とあるように本作は完結していない。続きはどうなるんだろうか。エンティティは神そのものではない。だからハントたちが反撃する余地もあるんだろう。次作の『PART TWO』で神学論や決定論と自由意志の問題そのものがテーマになるとは思えないけど、いまのところエンティティはただ自分の身を守ろうとしているだけのようにも思えるし、人類への悪意があるのかどうかもわからない。単純にエンティティを何らかの方法で破壊して終わるとも思えない。『攻殻機動隊』のようなエンディングもありうるんじゃないだろうか。
この物語と『ミッション・インポッシブル』シリーズがどのような結末を迎えるのか、楽しみだ。
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