ニコラス・ケイジ主演で、大事にしていた豚を奪われた主人公がその豚を取り戻しに行く話と聞いて、ニコラス・ケイジがそこらへんにいる人を手当たり次第にぶちのめす映画かと思って観てみたら、なんと静謐なハードボイルドだった。
ニコラス・ケイジ演じるロビンはオレゴン州の森の中で、電話も電気もない世捨て人のような暮らしをしながら、1頭の豚といっしょにトリュフを採って生計を立てている。週に1回、カマロに乗ってトリュフを受け取りに来る青年アミールだけが社会との唯一のつながりだ。
ところが、その豚が何者かに奪われる。ロビンは着実に手がかりを辿り犯人や黒幕に迫っていくんだけど、犯行にかかわった人間に対してもけっしてブチキレたり殴ったりせず逆に殴られてばかりで、オレゴンの森からポートランドのアンダーグラウンドまでロビンが彷徨するさまは、一風変わったハードボイルドものになっている。
映画は3幕に分かれていてそれぞれ料理の名前がタイトルになっている。捜索の過程で、ロビンやアミールと父との過去にも料理が重要な意味をもっていることがわかってくる。ロビンは会話と料理で人の心を動かし手がかりを追っていく。
真相が明らかになるが、結末はハッピーエンドとはいえない。アミールと父との関係がどうなるかもわからない。喪ったものは取り戻せない。ロビンの悲しみが癒されることはないのだろうか。アミールが作ったフレンチトーストを食べながらロビンが語ったように、いつか起こる地震によってポートランドに住んでる人も動物もみな津波にさらわれるということだけが救いなのだろうか。
映画は埋められない喪失感の余韻を残して終わる。
ニコラス:ケイジの演技も素晴らしいけど、有力者の息子アミールを『ヘレディタリー』や『ジュマンジ』『オールド』のアレックス・ウルフが演じていて、こちらも印象的だった。
監督はマイケル・サルノスキで、これが長編デビュー作とのこと。来年には『クワイエット・プレイス』の前日譚映画を監督したのが来年公開されるらしい。そちらも楽しみ。
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