奇妙で愛らしいメタ映画/『マッシブ・タレント』感想

映画

この映画はニコラス・ケイジがニコラス・ケイジ本人を演じるコメディ映画だ。といっても、演じられるのは現実のニコラス・ケイジではない。われわれが映画やプライベートからイメージする「ニコラス・ケイジ」……オーバーアクティング気味のハイテンションな演技、浪費癖のせいで借金があったり、酔っぱらった勢いで結婚してすぐ離婚したり、昔は大ヒット映画に出てたけど最近は低予算映画に出演することが多かったり……というニコラス・ケイジ像を「ニック・ケイジ」として演じる。だから元妻や娘との関係に悩んでいるところもフィクションだし、プライベートのニコラス・ケイジはいつもあんなにエキセントリックでいるわけではない。

僕自身はニコラス・ケイジ・マニアというわけではないけど、観たことある主演映画をつらつらと並べてみると、『フェイス/オフ』『ザ・ロック』『コン・エアー』『スネーク・アイズ』『ロード・オブ・ウォー』『ナショナル・トレジャー』『ゴーストライダー』『NEXT -ネクスト-』『バッド・ルーテナント』『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』『カラー・アウト・オブ・スペース -遭遇-』『ウィリーズ・ワンダーランド』……こうしてみてみると『ゴーストライダー』や最近の低予算映画は、ニコラス・ケイジのニコラス・ケイジ性を求めてキャスティングされてるんじゃないか。つまりニコラス・ケイジは『マッシブ・タレント』以外でもニコラス・ケイジを演じてるのだといえる。

映画の役を逃して落ちこみ引退を決意したニック・ケイジはお金のために、大富豪の誕生日パーティーに参加するという依頼を受ける。その大富豪ハビ(ペドロ・パスカル)は熱狂的なニコラス・ケイジ・ファンで、敬愛するニコラスと二人で映画を作ることになる。ぶっとんだ性格の大富豪、善人なのか悪人なのかわからない微妙なキャラクターをペドロ・パスカルが好演してて、ニコラス・ケイジ愛とか素朴な映画愛がキュートで、ニックとのバディっぷりも最高で好きになってしまう。

二人がニコラス・ケイジにオマージュを捧げた映画を作っていくことになるんだけど、この『マッシブ・タレント』という映画自体がニコラス・ケイジ愛に溢れニコラス・ケイジにオマージュを捧げた映画なわけで、入れ子構造というかメタ構造になっている。だから映画のラストは「現実」と「虚構」が混じりあうかたちになる。結局、二つの映画は同じものなのだ。

ただ、ニック・ケイジはわれわれ観客がいる現実のニコラス・ケイジではない。そのせいで、観ていてリアリティ・レベルをどこに置けばいいのかわからなくなってしまった。映画の冒頭で俳優としてのキャリアや娘との関係に悩んでいたニックは、巻きこまれた事件をきっかけに成長するんだけど、それもどうでもよく感じられてしまうし、メタ視点を持つコメディであればそちらに振り切ってくれてもよかったんだけど、巻きこまれた事件が最後にかなりシリアスな展開になりその緊張が解消されないうちに事件が終わってしまう。

とにかくハイテンションで若い姿のもう一人のニック・ケイジとの”絡み”がとくにぶっとんでて、笑えるところがいっぱいあるし、ニコラス・ケイジに求めるものがすべてそろっていて、ペドロ・パスカルもチャーミングだし、結末だけうまくオチていないと感じてしまったけど、それ以外は大変楽しめた。

コメント

タイトルとURLをコピーしました