『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』と『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』の(マルチバースだけじゃない)共通点

映画

2つの作品の共通点とは「マルチバース」「親子関係」「ベーグル」。

1.マルチバース

あらためて指摘するまでもないけど、どちらの作品もマルチバースが舞台になっている。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』では主人公エヴリンが並行宇宙に存在している自分と接続することでパワーを得て、宇宙を救うため戦う。『イントゥ・ザ・スパイダーバース』では、並行宇宙に存在するスパイダーパーソンたち(スパイダーハムも”パーソン”に含まれるのかな? 人間と同じように話すしまあ含まれるか)がマイルスのいる宇宙にやってくる。『アクロス・ザ・スパイダーバース』ではマイルス以外のスパイダーバースも描かれることになる。

どちらもテーマになっているのは「可能性」と「アイデンティティ」だ。自分の人生には別の可能性があったのではないか? あるいは、別の宇宙の「私」ではなくこの「私」たらしめているものはなんなのか? ということがマルチバースとして表現されている。

2.親子関係

『エブリシング…』のエヴリンは娘のジョイがゲイであることをうまく受け入れることができずそのことで親子関係がぎくしゃくしている。さらに、すべての宇宙を破壊しようとする存在ジョブ・トゥパキが別宇宙のジョイであることが判明する。『スパイダーバース』のマイルスは、自分がスパイダーマンであることを隠しているのでトラブルに巻きこまれても悩みを打ち明けることができないし、隠し事をしていること自体がマイルスと両親とのあいだに心理的な壁を作ってしまっている。また、グウェンも正体を隠していることで警察官である父親から殺人犯として追われ、正体を告白しても拒絶されてしまう。

親が子を想う気持ち、思春期の子の親への複雑な感情。どちらも普遍的なテーマで、作品にとって観客の感情を刺激する重要な核になっている。

3.ベーグル

『エブリシング…』でジョブ・トゥパキはベーグルの上に「すべて」を乗せて、すべての並行宇宙を破壊し飲みこむ虚無を創り出す。『アクロス…』のヴィラン、スポットの正体は前作『イントゥ…』でマイルスにベーグルをぶつけられた研究者だった。スポットが創り出す穴は別の宇宙(ユニバース)との壁に穴を開け、すべてのスパイダーバースを崩壊させかねない。ジョブ・トゥパキとスポット、全宇宙が崩壊してもかまわないという2人の怒りと虚無感も共通している。

『エブリシング…』は2018年8月に製作が発表され、『アクロス…』のほうは2019年11月に製作が発表されているけど、2018年12月に公開された『イントゥ…』の続編であり、おそらく2018年末の時点から構想は存在していたはず。『エブリシング…』の公開は2022年3月11日公開で、『アクロス…』もコロナの影響などで延期されなければ2022年4月に公開が予定されていた。『アクロス…』と『エブリシング…』は同時期に製作され、ほとんど同時に公開される予定だった。

だからこの共通点は、直接どちらかからの影響ということではないと思うけど、たんなる偶然ともいえない(いや、ベーグルは純粋な偶然か)。

マルチバース設定は最近のトレンドともいえるけど、グローバル化、多文化主義、人生のSNSコンテンツ化などによって、自分の人生の選択は他者とかんたんに比較・相対化され、唯一絶対のものとは思えなくなってしまう、そんないまの観客の実感を反映しているからこそ流行しているのだ。

2つの作品の共通点は、いまこの時代の空気を共有しているからこその共通点だ。

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