”人生は夢”テーマのトルコ映画『あぁ、ベリンダ』感想・考察

Netflix配信のトルコ映画。1986年製作の同名のトルコ映画のリメイク作品である。

実力派のセレブ女優ディララは、シャンプーのCMで自分とは対極にある、働く母親であり良き妻であるハンダンという女性を演じることになる。撮影はなかなかうまくいかず懸命にハンダンになりきろうとしていると、CMの中の世界に入りこみハンダンになっている自分に気づく。

人生は夢

カルデロン・デ・ラ・バルカの『人生は夢』という戯曲がある。主人公の王子を眠らせたあとに洞窟で目覚めさせ、実は自分は王子ではなく生まれてからずっとここで暮らしてきたのだと思いこませる。傲慢だった王子がよく生きるとはどういうことかを悟ったあとに真相が明かされ、王子に戻る。

主人公が別人の人生を生きることで自分の生き方を見直すという『人生は夢』と同じ構造とテーマを持つ映画には、デヴィッド・フィンチャー監督の『ゲーム』、トム・クルーズ主演の『バニラ・スカイ』(この作品もスペイン映画『オープン・ユア・アイズ』のリメイク)、『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』がある。しかし『あぁ、ベリンダ』は1986年製作の映画のリメイクであり、これらすべての映画に先行している。

1986年版とリメイク版の比較

1986年版もリメイク版もストーリーの骨子はほぼ同じだ。女優であるディララがハンダンになってしまうが最終的には元の世界に戻ってくる。1986年版は全編がYoutubeにアップされていて、トルコ語はわからないし自動翻訳もあまりうまくいっていないので完全には理解できていないけど、ハンダンの世界は”良き妻、嫁であれ”という女性への圧力を象徴しているように見える。ディララは抵抗しつつもそんな世界に取りこまれてしまうのだが、最終的には元の世界に戻ってきて、古い価値観を笑い飛ばして終わるように見える。

リメイク版はもう少し複雑だ。こちらのハンダンは一見、働きながら子育てもする良き妻のように見えて実は職場である銀行の上司と不倫をし、さらにギャングかなにかの資金洗浄に協力しながらその金を上司と一緒に持ち逃げすることを計画している。ディララは元の世界と同じようになんとか女優として生きて行こうとするのだが失敗し、良き妻ではなく破天荒なハンダンの人生をまっとうすることで元の世界に戻る。

ハンダンの世界での出来事は、CMでハンダンになりきろうとしたディララの白昼夢のようにも見えるが、映画のラストで暗くなったセットで一人呆然と座っているディララは、ハンダンの人生を経験したことからなんらかの影響を受けているのはあきらかだ。

ハンダンの世界で女優になるためいわゆる枕営業までしたのに、結局女優として役をもらうことはできなかった。またハンダン自身が不倫や犯罪に走ったのは、良き妻・良き嫁であることを求められる人生に満足できていなかったからだろう。

1986年版は、第2波フェミニズム的で、良き妻・良き嫁であるハンダンを乗り越え置き去りにしていく映画だったといえるかもしれない。2023年にリメイクされた本作は、第3波フェミニズム的で、いまだに達成されていない男女平等、女性の人生は一様でないことなどが反映されている。

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