ニュータウンにある古い団地を舞台にして、そこに住む老人たちを描く連作短編集。作者の分身と思しき主人公も猫を1頭飼っているし、主人公と仲良くなる隣人の女性も多頭飼いしている。団地の住人たちが野良猫に餌をあげたり気にかける描写も頻繁にある。おそらく作者も実際に猫を飼っているのだろう、猫たちの表情や仕草がリアルでかわいい。野良猫に餌をあげる老人たちは現実でもよく見かける。そういうあるあるとして描かれているだけではなく、叙情的なカットには必ずといっていいほど猫が描かれる。登場人物たちの精神や魂を象徴しているかのように。



作中で描かれる老人たちは、街中で独り言をつぶやいていたり、「永遠のリア充」の主人公は死んだ妻と会話していたり、現実世界から遊離して生と死の境界線を半分踏み越えているような存在である。実際、登場人物たちは登場したと思ったらあっさり孤独死してしまう。
野良猫への餌やりがご近所トラブルになる可能性はあるし、「煩悩と仙人」で描かれるタケノコ盗りは完全に犯罪だけど、明日死ぬかもしれない人間にそれはダメだよなんていってもしかたがない気になってくる。
猫たちはそんな幽明の境にいる老人たちを生の世界につなぎとめているようにみえる。野良猫の餌やりによって隣人との会話や付き合いが生まれたり、「その猫が救われた理由」では、猫はあの世とこの世を行き来している(主人公の夢の中でだけど)。「後日談」で描かれるように猫は「愛の受け皿」であり、「蝶が飛んだ日」で主人公は脳梗塞で倒れて、ある晩「このまま二度と目覚めずに孤独死するかもしれない、でもまあいいか」と思うのだが、唯一心配するのは飼っている猫のことである。
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