絶望がテロを生む/『How To Blow Up』感想と考察

映画

原題は『How To Blow Up A Pipeline(パイプラインを爆破する方法)』。同名のノンフィクション本の劇映画化。

主人公たちは石油産業を崩壊させるために爆弾を作ってパイプラインを爆破しようとする。

いままで観たことのあるエコテロリズムをテーマにした映画だと、たいていテロ自体は肯定されてなくて(リチャード・リンクレイター監督の『ファーストフード・ネイション』だと、活動家たちが牛を逃がそうと柵を解放したのに牛たちは逃げようとせず計画が失敗するというシーンがあったり)、でもこの映画はそうじゃなかった。いますぐ石油の消費による環境破壊をなくすため、インフラへのテロを完全に肯定し推奨している。純度100%の劇薬映画だ。

大企業が潰れたとしても困るのは貧しい末端の労働者ではないかとか、テロへの批判もいちおう議論される。しかし完全に説得的とはいえない。

一方で、爆弾の危険きわまりない製造過程、絶対に人的被害は出してはならないしパイプラインを爆破しても石油が漏れ出して環境を汚染しないようにしなければならない、という条件付きの爆破計画は、まるきりケイパーものの見せ方だし、主人公たちは石油パイプラインによって癌になったり土地を奪われたりという石油産業の被害の当事者たちで、同情し感情移入する観客もけっこういるだろう。

この映画はエンターテインメントの手法を使って観客の感情に訴えることで、石油企業のインフラを攻撃しいますぐ石油産業を崩壊させろと煽る。純度100%の劇薬だという所以だ。

ほんとうに実力行使するしかないほど気候変動危機は切迫しているのか、他には方法がないのか、石油産業を崩壊させれば世界はよくなるのか、確信は持てない。彼女たちの行動を傍観しているのは簡単なことだ。しかし、実際に石油インフラへのテロは絵空事ではなく、現実に実行されている。いまは名画や世界遺産にペンキをかけたりしてるだけの活動家も、もっと過激な行動に出るようになるかもしれない。もしそうなったらソーシャルメディアで批判するだけでは彼らを止められないだろう。気候変動危機はもう心配しなくてもいいと納得させられるまでは。

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