TVドラマ化企画が開発中だという記事を読んでおもしろそうだったので読んでみた。
アルファ星系との戦争のあと、見捨てられた衛星で精神病院の患者たちが独自の文化を形成して……という設定から『まぼろしの市街戦』を連想したけど、なんと映画公開より2年前に出版されている。『まぼろしの市街戦』のほうは、ある三面記事と第二次世界大戦中に起こった実話をもとに着想されたらしいけど、同じ着想源だったりしないだろうか?
主人公のチャックは妻メアリーと離婚調停中で、CIAのためにプロパガンダ用のシミュラクラ(模造人間)のしゃべるセリフを書いたり性格造形をする仕事をしている。なんだかんだあってアルファ星系人との政治的陰謀に巻き込まれていく。
一方、アルファ系衛星の住人たちは、被害妄想的で心配ばかりしているペア族、重度のうつ状態にあるデップ族、共感能力がなく攻撃的だけどいろんな才能があるマンズ族、ヴィジョンを幻視するスキッツ族など、精神障害ごとにクランに分かれて社会を形成している。チャックともう一人の主人公といえるペア族のべインズ、ふたりが精神に問題を抱えながら右往左往する様は、作者であるディックの分身なんだろうなと思えて興味深い。
メアリーは地球政府の政策でそのアルファ系衛星に精神科医として赴くことになり、チャックはメアリーに同行するCIAのシミュラクラを密かに操って妻を暗殺しようとする。
チャックが衛星を巡る陰謀に巻き込まれて誰もかれもがスパイに見える展開、CIA職員でありながらお笑い番組に作家として参加することになり、しかもコントのネタが「妻を暗殺しようとするCIA職員」だったりする前半はわくわくしかなりおもしろいんだけど、チャックとメアリーお互いを殺そうとする理由、最後に愛し合うようになる理由がどちらもよくわからないし、CIAとアルファ系人とのスパイ合戦は混乱してるし、チャックの前に次々とミステリアスな女性が現れ、最後にはチャックがなにもしなくても勝手に事態が解決してしまう。まるで『トータル・リコール』に出てきた願望充足の夢みたいだ。チャーリーに仕事を回してもらうかわりに番組のプロデューサーがメアリーに肉体関係を迫るところは絶対そのままは使えないだろうし……。
ストーリーや精神障害の描き方が偏見を助長する危険性とか、難しい点はいっぱいあるけど、ドラマ化が実現したらぜひ観たい。
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