「金がすべて」「経済がすべて」でいいのか?/『オタク文化とフェミニズム』感想

読書

本書のタイトルから想像していたのは、フェミニズムの視点から男性文化を斬りまくるというものだったけど、想像とは違って、オタク女性である著者自身の視点から、「2.5次元」や男性アイドルなど女性オタク文化について分析した論考がまとめられている(男性オタク文化への提言もある)。

2.5次元ミュージカルの現場や非ジャニーズの男性アイドルグループの歴史などについては、知らないことばかりですごく興味深かった。

男性アイドル文化の隆盛は、女性も男性を性的に欲望することができるようになったということでもあるけど、それは男性による女性の性的搾取をひっくり返しただけなのではないかというポストフェミニズム的な陥穽、あるいは、「金を落とす」ことでしか社会的な存在感を示すことができないという資本主義フェミニズム的な罠も存在している。

アンジェラ・マクロビ―『クリエイティブであれ:新しい文化産業とジェンダー』『フェミニズムとレジリエンスの政治』や、2.5次元、男性アイドルグループについての資料も多数紹介されていて参考になる。あとがきで触れられている上岡磨奈には『アイドル・コード: 託されるイメージを問う』、上岡磨奈と中村香住の編著『アイドルについて葛藤しながら考えてみた――ジェンダー/パーソナリティ/「推し」』、高橋幸には『フェミニズムはもういらない、と彼女は言うけれど : ポストフェミニズムと「女らしさ」のゆくえ』があるし、アイドルやポストフェミニズムについてのブックガイドにもなっている。

2023年に表面化したジャニーズ問題についても書かれていて、事務所と所属タレントの一方的な権力関係が背景にあること、テレビ局などの反応の鈍さ、ファンの見て見ぬふりなど、まるでいまのフジテレビの女性アナウンサー上納問題について書かれているのかと思うほどで、問題が完全に地続きであることがよくわかる。

性加害はジャニー喜多川ひとりの問題ではなくて、テレビ局による隠蔽やファンの見て見ぬふりなど、金と権力のためなら少数の人間が犠牲になっても構わないという風潮がなければ被害がこんなにも長期かつ広範囲になることはなかった。

今般のフジテレビの問題で、金と権力を持つものたちには自浄能力などなく、彼らを止める回路は文春砲かガイアツに頼るしかないことがまたはっきりした。

ジャニーズ問題以降も、金こそがすべてで、権力に逆らうやつは馬鹿だという風潮はなくなっていない。アメリカではトランプが再び大統領になり、日本ではミニ・トランプみたいなインフルエンサたちが成功し政治家になっている。CM出稿の自粛でフジテレビは何百億も損失を出しただろう。「このことが公になったら大勢の人間が損をする」「権力従っていればおこぼれにあずかれる」そんな考え方で少数の人間の尊厳と命を犠牲にしていれば、ジャニーズ問題やフジテレビ問題と同じような問題は今後も起き続けるだろう。

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