時代設定が1965年でなければいけなかった理由?/『ファンタスティック4 ファースト・ステップ』感想と考察

映画

『ファンタスティック4 ファースト・ステップ』はMCUの最新作。本作の時代設定が1965年でなければいけなかった理由を考えてみたい。

街並みや車のデザインは50~60年代でありながら、データはレコードに保存し車が空を飛んでいるという、レトロ・フューチャーな世界設定になっていて、MCUのメインの宇宙とは別の宇宙、アース828が舞台になっている。

レトロ・フューチャーSFの特徴は、科学技術がなんでも解決してくれるという楽観主義だ。20世紀前半から1960年代あたりまで、科学技術の発達は世の中をどんどん便利にしていった。また、当時の最先端の科学技術による兵器である原子爆弾が太平洋戦争を終結させたというイメージ(実際にはそんなことはなかったわけだけど)も科学に対する希望を

当時の未来予測では、50年後、100年後の世界では科学技術によって貧困や戦争もなくなり、いかに便利な世の中になっているか、空飛ぶ車が街の上空を飛び交うイメージ、主人公が科学技術を駆使して悪を倒しハッピーエンドを迎える物語が多く書かれた。

60年代のアメリカは景気も良く、アメリカン・ドリームもまだ信じられていた。1964年公民権法が成立し、アフリカ系アメリカ人への投票妨害を禁じる1965年投票権法が制定され、法律の上では人種差別が是正された。

今回の『ファーストステップ』のレトロ・フューチャーな世界観は、科学技術への楽観主義と60年代アメリカの希望に満ちたイメージそのものだ。

しかし差別を撤廃した法律が制定されても、差別そのものはなくならない。1968年にはキング牧師が暗殺される。公害問題や原発事故による科学技術への幻滅、ベトナム戦争は泥沼化し、冷戦による核戦争が現実味を帯びてくる。70年代には希望のあふれた明るいアメリカのイメージは消え去ってしまう。

Time traveller: one Senegalese man’s journey to the past – in pictures
Whether it’s in segregated America or the glory days of postwar France, Omar Victor Diop appears in photographs of worlds he was previously shut out from

リー・シュルマン とオマー・ヴィクター・ディオプによるこれらの作品では、50~60年代のアメリカで撮られたと思われる白人しか写っていない写真に黒人であるオマー自身の姿がコラージュされることで、まだ人種隔離政策の残っていた当時の白人中心主義が強く意識される。

人種差別撤廃の法律が成立した1965年以前に時代を設定すれば、当時存在していた人種差別を無視しているととられてしまうし、キング牧師暗殺やテト攻勢のあった1968年以降、70年代は時代はどんどん暗さを増していく。希望にあふれたイメージの世界を描こうとすれば、1965年から68年のわずかな間に設定するしかなかったのではないだろうか。

また、たとえ一瞬でも希望に輝いていた時代があったのだとしても、それはアメリカだけのことでしかない。アメリカ以外の国で起こっていたことは無視されている。

興行収入的に大ヒットしているというのも、このアメリカ中心主義的で人種問題など最初から存在しなかったのだというイメージが一役買っているのではないかというのは、穿ち過ぎだろうか。

希望はいつも必要だが、それが真実を覆い隠す幻想であってはならない。

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