MCUのフェーズ5最初の作品。マルチバース・サーガはフェーズ4~6だから、序・破・急でいえば破にあたる作品で、マルチバース・サーガのラスボスといわれてる征服者カーンが本格的に登場する。
サノスとの戦いのあと、自伝を出版したりして世界を救うようなヒーロー活動からは身を引いていたアントマン=スコット・ラングが、量子宇宙での戦いに巻きこまれていく。
量子レベルの宇宙には無数の宇宙が含まれているらしく、いろんな姿の知的生命体も存在している。イーガンの『ディアスポラ』みたいなハードSF理論をくっつけることもできなくはないだろうけど完全にスペース・オペラの世界で、『アントマン』シリーズだからギャグ多めだし楽しい。
ホープ(ワスプ)の母親であるジャネットは、量子世界に囚われていたあいだにカーンと因縁があったり、何年も一人でサバイバルしていたので量子世界に詳しく、戦闘でも活躍してかっこいい。
気になってたモードックの造形、予告編に出てきた金属的な外骨格のままかと思ったら、コミックやアニメでの姿を真正面から実写化してて、笑い要素多めの『アントマン』シリーズだからこそかな。
笑いだけじゃなく、「コア」の上でスコットとホープが無数の自分の可能性に分裂してしまうシーンでは涙してしまったけど、このシーンは可能性と倫理について描いている。『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』と同じく、やはりこのマルチバース・サーガのテーマは可能性と倫理なのだ。たとえば、盗もうと思えば盗めたのに盗まなかったこと、困ってる人を見て見ぬふりできたのにそうせずに助けることこそが善い行いであり、あるいは、罪を犯してもそうする以外の可能性がなかった場合は不可抗力ということで無罪になったり情状酌量が認められたりする。ある行為・選択に別の可能性があったかどうか、というのは自由意志と倫理に関わってくる。ヒーロー映画で倫理・善悪がテーマになるのは当然のこと。劇中のモードックの選択のように、人は変われるのかというテーマにも関わってくる。無数の並行世界に存在しているカーンたち、彼らの中には善人であるカーンも存在しているのだろうか? そうでなければカーンは必然的に悪であるということになる。そしてマルチバースに存在するヒーローたちはどうなのか?
今作でジョナサン・メジャース演じるカーンにけっこう感情移入してしまったけど、カーンという強烈でかなり特異なキャラクターが、この先どのように描かれていくのか楽しみでしかたない。
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