『ロボット・ドリームズ』はパブロ・ベルヘル監督によるアニメーション映画。2024年アカデミー賞の長編アニメーション部門にノミネートされた。孤独な犬とロボットの出会い、友情、別れを描いたストーリーだ。
細部までこだわった演出、なによりアース・ウィンド・アンド・ファイアーの「September」が物語にぴったりで、ラストでは涙ぐんでしまったのだけど、絶賛している人たちほどには感動できなかったらしい。
最大の理由は犬とロボットの関係だ。ロボットはあくまで犬に買われた商品でしかない。映画では原作とは違って、ロボットを購入する前の犬の孤独が丹念に描かれる。動けなくなったロボットが閉鎖されたビーチに閉じこめられてしまうと、犬は考えられるかぎりの手段を使ってなんとかロボットを助け出そうとする。犬のロボットへの想いは切実でリアルに描かれている。しかし、ロボットはこの世界ではあくまでモノでしかなく、であるならば対等でない2人の関係はリアルなものではありえない。そこにもやもやしてしまって没入できなくなるのだ。
原作でも犬はビーチで動けなくなったロボットを修理しようとするのだが、ビーチに入れなくなるとあっさり諦めてしまってそれ以上の描写はない。翌年の夏にビーチにロボットを探しに行くのも、忘れ物を探しに行くような感じで、見つからないとわかるとすぐに新しい代わりの友達ロボットを購入しに行く。映画版に比べると原作では犬の感情は淡白で、しかしそのおかげでもやもやをほとんど感じない。
映画版の原作にはない要素としてもう1つ、リアルな80年代中盤のニューヨークが描かれていて、いまはなきツインタワーが犬とロボット2人を象徴するように何度も登場する。しかし、テロによって破壊されたビルは2人の友情/愛情というテーマには結びついていないし不釣り合いに思える。
犬が作った雪だるまが歩き出し、犬と一時的な友人になるというエピソードは、映画では犬の夢の中の話になっていたが、原作では夢ではなく現実の話になっている。原作はリアリティラインがより非現実よりなのだ。
ベルヘル監督は犬の感情や世界の描きかたで原作よりもリアリティラインを上げている。そのことによって観客の感情に訴えかける力はより強くなっている。と同時に犬とロボットの関係の歪さも拡大されてしまう。
私が感じたもやもやの原因は、作りこまれたディテールとリアリティラインがあがったことによる副作用だったのだ。
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