MCUのマルチバース・サーガのラスボスであるカーンを主役にしたアメコミ作品。
科学が極度に発達し争いもない31世紀の世界に退屈していた青年ナサニエルはある日、カーンと名乗る人物に出会う。彼は未来の自分自身であり未来に起こる失敗を繰り返さないため、すべての知識を授けようという。カーンはナサニエルを過去に連れていきサバイバル術や戦略理論で鍛えながら、「誰も愛するな」と教える。カーンはラボーナという女性を愛することによって時間の檻に閉じこめられ苦しむことになったのだ。誰かを愛せば自分と同じ失敗を繰り返すことになる。
二人の関係は父と子の関係のようでもあるけど、ファウストとメフィストフェレスも連想させる。ファウストは悪魔メフィストフェレスと契約することで、どんな願いも叶うかわりにもしファウストが「時よ、とどまれ」と口に出したら、悪魔に魂を奪われて地獄で永遠に奴隷となることを約束する。
メフィストフェレスと契約したファウストのように、ナサニエルは何万年も生きる能力を得てあらゆる世界を征服しわがものにしてくが、ラボーナからの愛だけはどうしても得られない。
ファウストは人々のために干拓する大事業の作業の様子を眺めながら思わず「(この事業が完成した)そのときこそ、時よ、とどまれ、おまえはじつに美しいと、呼びかけてやる」と呟いてしまう。その瞬間、ファウストは絶命し仰向けに倒れる。それを見てメフィストフェレスが独り言ちる。
何であれ願いつづけ、求めつづけた。ついぞ満ち足りたことのない男だった。千々に変わる姿を追いつづけたあげく、哀れなやつめ、とどのつまりはできそこないの空虚な時を握りしめようとした。しきりにじたばたしていたが、時が勝って、老い朽ちたのが土に横たわっている。
池内紀訳『ファウスト 第二部』(集英社文庫)p.407
若き自分に知識を与えても結局はラボーナの愛を得られず、失敗を悟ったカーンは、永遠にもひとしい時間の果てに「時間と空間の全てがお前を敗北させようと企てても…決して決して愛するな」と呟きながら最期を迎える。ファウストの魂は地獄に堕ちる直前、天使によって救われるが、リブートを繰り返すマーベル・コミックの世界やMCUのマルチバース宇宙の中でカーンの魂が救われることはあるんだろうか?
これからのMCUフェーズ5、6でカーンがどのように描かれていくのか楽しみだし、ラボーナとの関係が描かれるのかも気になる。
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