『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド』感想と考察

映画

Disney+で配信された『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』でキャプテン・アメリカを継承することになったサム・ウィルソンが主役のMCU最新作。

『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』では、アベンジャーズのリーダーであり、正義やアメリカの象徴のような存在だったキャプテン・アメリカを継ぐという重責への葛藤、また、アフリカ系であることで歴史の闇に葬られていた幻のキャプテン・アメリカ、イザイア・ブラッドリーの存在を描くことで、正義と愛国心のあいだの葛藤も描かれた。

ドラマシリーズではもう1つ、アベンジャーズなきあとの多極化し不安定化した世界を描くこともテーマになっていた。その流れを受けて本作は、やはりアメリカを代表する存在、アメリカ大統領がもう一人の主役になっている。

内なる”ハルク”と向き合う

本作では、『インクレディブルハルク』でハルクを追っていたロス将軍がアメリカ大統領に就任している。ハルク/ブルース・バナーはロスの娘ベティの恋人であり、『インクレディブルハルク』の事件以来娘とは絶縁状態になっている。ロスは娘との関係修復を願い、スーパーヒーローを国家権力の下でコントロールしようとしてきた過去を反省して、”together”を政治的スローガンに掲げている。

ロス自身は過去を反省し変わろうと思い、周囲にもそう信じさせているのだが、大統領就任のためにハルクの血液に暴露し超知性を得たスターンズを監禁し利用していた。スターンズの復讐により、ハルクを追っていたロス自身がハルク化することになる。ハルクはロスが隠していた自分の中にある悪の象徴だ。アメリカ大統領みずからホワイトハウスを破壊し世界情勢を不安定化させる様は、まるで現在のトランプ政権を予見していたかのようだ。

ハルク化したロスに対してサムは、力で押さえつけるのではなくロスの良心に訴えかける。理性を取り戻したロスはすべての罪を認め超人用の監獄に入る。怒りや欲望よりも理性や良心に従い、自らの罪を認めるロスの姿には「アメリカ大統領はこうあってほしい」という制作者の願いがこめられているようで、明るい希望を感じた。

すばらしい新世界(ブレイブ・ニュー・ワールド)

本作のサブタイトル「ブレイブ・ニュー・ワールド」は、シェイクスピアの『テンペスト』に登場するセリフだ。プロスペローの娘ミランダが父親の束縛から解放されて初めて島の外の人間に出会ったときの「O brave new world, / That has such people in’t!(ああ、なんて素晴らしい新世界、/ こんなに素敵な人々がいるなんて!)」というセリフからとられている。またこのセリフはオルダス・ハクスリーのディストピア小説『すばらしい新世界(Brave New World)』の題名でもある。数年後にはX-MENの登場も噂されているこれからのMCUの世界は、文字どおり”すばらしい”世界になるのだろうか、それともディストピアとなってしまうのか、期待と不安を予感させるサブタイトルになっている。

自分の過去の過ちと向き合うというテーマは5月に公開予定の『サンダーボルツ*』とつながっている。最近のMCUはジョナサン・メジャースの降板によって変更を余儀なくされたこともあって、ストーリーの大きな流れが見えにくくなり迷走している感があった。しかし本作は、次作やX-MENの登場などへのつながりをしっかりと予感させるものになっていて、シリーズの盛りあがりのギアが1段上がった感がある。今後のMCUが楽しみだ。

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